dreamlike occurrence.





<6>





「あんた・・・何なの・・・?」
どうしても声が震えてしまう。
こいつに好きだと言われた。
ずっと隠していたけれど、今日告白しようと思っていたと言われた。



何が『ほなな』なんだ?
そんな挨拶あるのか?
それなら・・・あのスタバのオトコは何だっつうの!



さっき心の奥深くに封印した想いが、大波のように押し寄せてきて、結界を破ったと同時におれは・・・叫んでいた。
「おれに、言いたいことあるんだったら言えっていったくせに!ワケがあるんだったら話せって言ったくせに!おれに話をさせるヒマも与えず、勝手に自分の気持ちばっか押し付けて!」
あんなに八つ当たりはしないって決めたのに・・・おれは冷静になれるほどオトナじゃない。
一旦口から溢れた想いは、もう止めることができなかった。
「何勝手なこと言ってんの?おれが好きだって?でももういいんだって?自分の気持ちさらけ出したらそれで満足したってわけ?その程度の『好き』なわけ?」
崎山の表情が、怒りを含んだ悲しげな表情に変わったけれど、おれは続けた。
「おれは、あんたの感情に振り回される都合のいいヤツなんてイヤなんだ!好きなヤツのうちのひとりなんて立場はヤなんだよ!」
「友樹・・・何言うてんの?」
こうなったらとことんぶちまけてやる!どっちにしても『ほなな』なんだから!
「あんた、星光学院のヤツとスタバにいたじゃん。しかも超かわいいオトコだったぜ?おまけに優に似てた。あんたのモロ好みじゃん。そんじょそこらの付き合いじゃないのは雰囲気でわかったよ。おれ、バカみたいじゃん!呼び出されたらホイホイ付き合ってさ。あんな本命いるんだったらおれなんて勝てっこないじゃん!あんたがおれを誘ってくれるのは、おれに好意があるからだなんて思い込んで・・・バカじゃん、おれって・・・・・・」
情けなくって、さっきまでの威勢のよさがどんどん消えていき、最後は聞こえないくらい小さな声になってしまった。
顔が見れなくて俯くおれを、さっき離れていったぬくもりが、再度包み込んでくれた。
今度は優しく優しく・・・

「アホか。あれは・・・従弟やっちゅうの」
後頭部を手のひらで撫でられ、幾分おちついたおれの耳に入ってきたのは、懐かしい、そして優しい罵倒の言葉だった。
「イ・・・トコ・・・?」
「そう、母方のな・・・」
あまりにあっけない答えをおれは素直に受け入れることができなかった。
「だって、こっちに親戚がいるなんて言わなかったじゃん」
「別に言う機会なかったから言わんかっただけやん。だいたい親戚もいいひんのに、わざわざこの地を選んで関西から出てくるかいな。親戚がいるから、ここにしたんやで?」
それもそうだ。東京にいくならまだしも、こんな田舎の大学を、わざわざ選ぶ理由なんてない。
あまりに馬鹿馬鹿しい誤解に、おれは気が抜けてその場にへたりこんでしまった。
「と、友樹っ」
慌てて崎山もしゃがみこむ。
顔を覗き込まれて、真っ赤に火照ったのがわかった。
だって、好きだとは言ってないけれど、こ、告白したもの同然だ。
しかも、みっともない嫉妬心で、ウソをつき、自分の誕生日をぶち壊し、挙げくの果てに・・・崎山を傷つけてしまった。

「お、おこんないわけ・・・?」
「なんで怒るん?」
「だって・・・おれ・・・バカだし・・・・・・」
「バカはわかってるって!」
「わ、わかってるって―――」
ほんとにバカなんだけど、改めて言われるとムッとしてしまった。
これがコドモだっていわれる所以なんだろうけど。

「友樹がおれのこと好きで・・・従弟といるのと誤解して拗ねてたことを怒るわけ?友樹がおれのこと好きなことを―――」
「そんな何度も言うなって!」
恥ずかしくて誤魔化そうと、振り上げた腕を取られて引き寄せられた。
今日二度目の抱擁。
「ごめんな。不安にさせて・・・もっと早うに勇気だしたらよかった・・・」
崎山の真っ直ぐな想いがおれの頑なな心も溶かしてゆく。
「おれも・・・ごめん。素直じゃなくてさ・・・・・・」
そして、まだ言っていない言葉を・・・ゆっくり囁いた。
「おれ・・・崎山さんが好き。おれは優みたいに可愛げもないけど・・・いいかな?あんたを好きでいてもいいかな?」
優のように、やさしくもないしかわいくもない。どちらかというとオトコっぽいし、ありあまるほど元気だ。
ふんわり包んでやることはできないかも知れないけれど、楽しく一緒に歩いていくことはできる。
きっと、こいつが困ったことがあったら、力になってあげることができる。
どちらかに依存する関係じゃなくて、共に歩いていくことができる。
「何言うてるねん。おれは友樹が好きなんや。かわいくなくて、生意気で、気が強くて、おれのタイプと全然違うけど、それでも友樹が好きやねん」
「げっそこまで言うか」
クスクスと笑いあう。
あの修羅場がウソのような穏やかさに包まれた。
「せやけど、こんなん言えるのも友樹だけや・・・」



『友樹だけ



別な感じがして、それだけでうれしくなるのって、やっぱりおれって単純なのかな?

「なあ、プレゼント開けてみてえや」
促され、紙袋から包みを出して、ドキドキしながら包装を解いた。
飛び出したのは、紺と白を基調とした千鳥格子の・・・布・・・?
不思議そうにそれを手に取るおれから奪い取ると、バサリとその布を広げた。
「あっ・・・浴衣・・・?」
「ピンポーン。もちろんメンズやさかい安心しろな」
広げられてわかったけれど、裾の方に小さなトンボがアクセントになっている。
「友樹に似合いそうやな〜って。じじくさくないし。かっこかわいいやん」
タグを見れば、それはりかの好きなブランドのものだった。女の子らしい、かわいいデザインが売りなのに、メンズの、しかも浴衣のコレクションも出してるだなんて知らなかった。
浴衣ってオンナの着るものだと思ってたけど、メンズもあるんだなって感心していたら、優しい崎山の声が耳に入った。
「それ着て、今年は夏祭り行こうな・・・」
おれはただ素直に頷いた。









back next novels top top